神戸製鋼HOME > 素形材事業 > やさしい技術 > やさしい技術/銅編 > No.13 銅管

No.13 銅管

(アイル2003年1月掲載)

エアコンの部品や配管として、私たちの生活で大活躍している銅管。銅の塊から管状にしていく工程には、さまざまな技術が生かされています。今回は、この銅管がどのようにして作られているのかを勉強していきます。

建築用銅管
建築用銅管
熱交換器用銅管
熱交換器用銅管
 

押出・圧延・抽伸の3工程で、細い管状を形成

モンちゃん
みなさんお久しぶりです!誌面で人気だった「やさしい技術」が、今回よりリニューアルしてスタートします。
アンサー氏
しばらくお休みしている間に、アイルはwebになったんだね。
モンちゃん
そうですよぉ。ちゃんと時代の流れに乗っているんですから。
アンサー氏
前にも増して、たくさんの人に見てもらいたいね。
モンちゃん
そうですね、みんなにどんどんアクセスして欲しいな。
アンサー氏
じゃあ気持ちも新たに、さっそく勉強をはじめよう。リニューアル第一弾のテーマは「銅管」だよ。それではまず、どうやって銅管が作られているかから話しをしよう。
モンちゃん
はあい。
アンサー氏
原料は畳半分ほどの大きさの電気銅。これを溶解するところから作業は始まる。
モンちゃん
シャフト炉と呼ばれる溶解炉でドロドロに溶かすんですね。
アンサー氏
それで、この段階で微量の「りん」を添加して「りん脱酸銅」を作るんだ。つまり、非常に酸化しやすい性質を持っている「りん」を使って、銅の中に溶け込んでいる酸素を取り除くんだよ。
モンちゃん
それはなぜですか。
アンサー氏
銅に限らず、金属というのは水素が金属の中に拡散しやすい。そこで、例えば酸素を含んだ金属に何らかの形で水素が入ってきた場合、その水素と酸素が結合して水を作ってしまうんだ。そうすると、とてももろくなるんだね。
モンちゃん
だから、後の工程で水素が入っても大丈夫なように、あらかじめ脱酸をしておくというわけですね。
アンサー氏
そう。そして、こうしてできあがった塊がインゴット。これを作業しやすいように短くカットすると、ビレットという呼び名に変わる。
モンちゃん
これをまた加熱するんですか。
アンサー氏
850度ぐらいまで加熱をしてから、今度は押し出して形状を作っていく。押出プレス機のしくみは、出口にあるダイスと呼ばれる部分の中間にマンドレルという工具がある。ここに後ろからビレットを押し出していくと、ダイスとマンドレルのすき間を流れて、外に出たときには管状になっているんだよ。
モンちゃん
まるで、トコロテンみたいですね。ここでできた銅管を、さらに細くしていくんでしょう?また加熱するんですか。
アンサー氏
いやいや、もう加熱はおしまい。銅は鉄と違って加工しやすい素材だから、後は延ばしたり、ひっぱったりして細くしていくんだ。
モンちゃん
それで…次は圧延かあ。これは、さっきできた銅管の長さ方向にロールを転がして延ばしていくんですね。
アンサー氏
簡単にいうと、まさにそういうこと。チューブレデューサといって、素管の中に先ほども登場したマンドレルを入れておき、外側からロールを前後に往復運動させながら管だけを送り出していく。この時、管の厚さが均一になるように、一往復するたびに90度ずつまわしながらやっていくのがコツなんだよ。
モンちゃん
なるほど。そして今度はこれをひっぱって細くする抽伸工程に移るのね。
アンサー氏
この銅管をブルブロックという“連続巻取抽伸機”にかける。これは銅管を伸ばしながら、回転ドラムにどんどん巻付けていく仕組みになっている。ここでは、マンドレルのかわりにフローティングプラグという工具を使うんだ。
モンちゃん
これはマンドレルみたいに固定されていないんですね。だから、後ろの方が大きくなっていて、そこがダイス部分とうまくひっかかって、抜けないようになっているのか…なるほど。
アンサー氏
この作業は始めに銅管の中に潤滑油と一緒にフローティングプラグを入れる。そして先端をつぶして細くし、ダイスに通していく。これを口付けというんだよ。
モンちゃん
ふふふ…“くちづけ”なんて、なんだかロマンチック。
アンサー氏
それでこの先端をドラム下方にあるチャックアームというところに固定して、あとはドラムの回転とともに銅管が引っぱられていくということになる。
モンちゃん
ドラムの上の方まで巻かれると、あとは下のほうにどんどん落ちていくのね。この方法だと、いくらでも伸ばせちゃうわ。
アンサー氏
そう。フローティングプラグが固定されていないから、いくら長い銅管でも大丈夫。それがこの方法の最大メリットだよ。
直接押出
直接押出

チューブレデューサー
チューブレデューサー

加工硬化した銅管を加熱して、元の状態に戻す

モンちゃん
次はいよいよ仕上げかあ。ニーズにあわせて形を整えていくんですね。
アンサー氏
銅管の仕上機にはいろいろあって、管連続仕上機では、ブルブロックでできた銅管を真っ直ぐにして決められた長さに仕上げ、リコイラーでは、蚊取り線香のようなコイル状に仕上げ、スプーラーでは、糸巻き状のコイル(レベルワウンドコイル)に仕上げるんだよ。
モンちゃん
これであとは包装して、出荷をするんですね。
アンサー氏
ちょっと待った!その前に、もうひとつ「光輝焼鈍」という仕上げ加工をしなければならないんだ。先ほどの仕上げ機を出た状態の銅管は“加工硬化”状態なので、これを元通りに柔らかくするんだよ。それをしておかないと、曲げたり伸ばしたりして使えなくなるからね。
モンちゃん
“加工硬化”というのは。
アンサー氏
モンちゃんは針金を曲げたり伸ばしたりしたことはあるかな。
モンちゃん
ええ。やっているうちにポキッて折れちゃいましたけど。
アンサー氏
それが“加工硬化”の状態なんだ。これは金属特有の現象で、材料を変形させていくうちに素材の結晶の中にひずみがたまっていって柔軟性がなくなり、ついにはポキッと折れる。つまり金属が硬くなって、ガラス棒のように折れ易くなってしまうんだよ。
モンちゃん
へええ。それじゃあ、元の加工しやすい状態に戻すには、この結晶の中のひずみをとればいいんですね。それはどうしたらいいんですか。
アンサー氏
うん。これは加熱すればいいんだよ。加熱することでひずみがなくなり、新しい結晶ができる。
モンちゃん
どのくらいの温度で焼くんですか。
アンサー氏
銅の場合だと400~450度ぐらいで充分。温度に関しては、銅は他の金属より比較的簡単に管理できる。
モンちゃん
鉄みたいに、熱いところを急速に冷やすと固くなるというようなことはないんですか。
アンサー氏
銅にはそういう特性はない。でも、加熱した状態で自然冷却すると、冷めるまでの間もどんどん再結晶化が進んでいくから、やはりここではちょうど良い固さに仕上げるために急速冷却をしている。そして、この工程が終わった後の銅管は、ピカピカのきれいな色になるんだよ。
モンちゃん
そうか。だから「光輝焼鈍」っていうんですね。

フローティングプラグ引き
フローティングプラグ引き

通常品の2.5倍の伝熱性能を持つ溝付銅管

モンちゃん
ここに模様のついている銅管もあるんですけど……。
アンサー氏
これは、内面溝付管といって、管内にねじれた突起が多数ついていて、管内表面積を大きくすると同時に中を通る冷媒(フロン)に旋回流を発生させて熱交換性能をよくするんだ。
平滑な銅管に比べると、管内の熱伝達率が約2.5倍にもなるので、世界中のエアコンに使用されているよ。
モンちゃん
溝をつけただけで2.5倍も。最初にこのアイデアをだした人はすごいなあ。この溝はどうやってつけるんですか。
アンサー氏
中の溝は、円筒状プラグの表面に溝が彫ってある“溝付きプラグ”を使う。これを銅管の中に入れて、外側からボールをまわして押し付けていくんだ。
モンちゃん
小さい頃、よく粘土に積み木を押し当て模様を作って遊んでたけど、あんな感じね。
アンサー氏
そうそう。外側のボールを回転させながら銅管を引っぱっていけば、連続的に溝ができるというわけ。プラグはボールに対して一定の位置になるよう保持されている。ボールは1個だけだと点々としか模様がついていかないんで、複数個を1分間に数万回転という速度でまわしている。
モンちゃん
溝付管をいかに効率良く生産していくかは、このボールのまわしかたにかかっているんですね。それでは外側の溝の場合は?
アンサー氏

外側のフィンについた銅管は、大型の冷凍機の伝熱管に使用されていて、表面積を大きくして熱交換性能を良くしているんだ。銅管の外側に複数薄いディスクを回転しながら押付けてつくるんだけど、ディスクを銅管に対して少し角度をつけているため、銅管自体が回転しながら加工されるんだよ。

モンちゃん
ネジをまわすのと同じ原理ですね。
アンサー氏
これらの溝付け加工を一般的に「転造加工」というんだよ。
フィンの転造

フィンの転造
フィンの転造

小規模生産に適した、キャスト・アンド・ロール方式

モンちゃん
そういえば最近、銅管の新しい製造方法があるって聞いたんですけど。
アンサー氏
うむ、従来の押出による造管とは異る、キャスト・アンド・ロール方法というのができたんだ。これは小規模生産に適していて、設備投資額も少なくてすむから、ここ数年間に新設された銅管工場ではほとんどこの方式が採用されているんだよ。
モンちゃん
その方式では、具体的にどのようにして銅管を製造するんですか?
アンサー氏
原料は従来と同様に電気銅を使用し、シャフト炉で溶かすんだけど、鋳造が横型でホロー(パイプ状)に連続鋳造して押出工程を省略する、省エネタイプなんだ。また、圧延機がプラネタリー(遊星回転)型でロール回転させながら押付けて加工していくんだよ。このふたつの特徴から「キャスト・アンド・ロール」という名前がついたんだね。

ロール圧延(プラネタリーロール圧延)
ロール圧延(プラネタリーロール圧延)

モンちゃん
それで、その方式で製造されたモノの品質は、従来のモノと比べてどうなんですか。
アンサー氏
最初の頃は鋳造技術や圧延技術に問題があったりしたけど、その後技術的な改善が進み、今ではエアコンなどにも使用されだしてきたよ。
モンちゃん
じゃあ、押出法での製造は不利になっちゃったのね…。
アンサー氏
いや、押出法は規模が大きいと生産性が高いし、大口径も製造できるので、必ずしも不利になったとはいえないんだよ。とくに日本の銅管メーカーの設備は償却が進んでいるから、結構競争力があるんだ。
モンちゃん
なるほど。この他にも銅管の製造方法ってありますか。
アンサー氏
銅板を溶接し銅管を製造する方法もあるけれど、全世界で米国の1社だけしか実施していない。
モンちゃん
銅管の材質にはどんなものがありますか。
アンサー氏
銅管の材料は少なくて、主なものはりん脱酸銅と無酸素銅のふたつなんだ。エアコン、配管などに使用されているものはりん脱酸銅の比率が大きいし、無酸素銅は電気伝導度が良いから電気関係に限定的に使用されているんだよ。
モンちゃん
銅管が使われているものというとエアコンを思いだすけれど、他にも何か新しい用途とかあるのかしら。
アンサー氏
ご存知の通り銅は非常に歴史の古い金属でいろいろな工業製品に使用されているけれど、新しい用途として最近注目されているのは炭酸ガスヒートポンプの給湯器用かな。
モンちゃん
ひゃー、なんかややこしい名前だけど、それってどのようなものなんですか。
アンサー氏
湯沸器を電気式にしたようなもので、作動流体に自然冷媒の炭酸ガスを使用しているんだ。老齢化社会に向けた住まいや集合住宅などではオール電化の動きがあるけれど、それに対応した製品なんだよ。作動圧力が高く、厚肉の銅管が使用されるので、銅管メーカーが期待しているのさ。実は、今はエアコンの海外からの持ち帰りが増えて国内の銅管需要が減っているので、エアコンに替わる銅管用と開発が急がれているんだ。さあ、今日のお話しはここまで。銅管ができるまでのしくみや最近の銅管を取り巻く状況などわかってくれたかな。
モンちゃん
はいっ、とても勉強になりました。次回の「やさしい技術」を楽しみにしていま~す!