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No.15 加工管

(アイル2003年3月掲載)

モンちゃんとアンサー氏

前回はエアコンの省エネ対策として内面溝付管の勉強しました。今回は、内面だけではなく、さらに外面にも溝を施し伝熱効率をアップした「加工管」について勉強していきましょう。

加工管

内側と外側とダブルで効率をあげる、吸収式冷凍機用加工管「エンドクロス」

モンちゃん
まだまだ寒い日がつづきますねぇ。
アンサー氏
そこまで春は来ているという感じではあるけど…。モンちゃんの部屋の暖房エアコンは、まだフル活動してるのかな。
モンちゃん
もう使わないと寒くて、寒くて。私の部屋のエアコン、今シーズンは大活躍ですよぉ。
アンサー氏
さて、ここで問題。前回エアコンの省エネ対策にとても重要な役割をしている技術を学んだよね。覚えているかい。
モンちゃん
はい、伝熱管として使われている銅管ですね。内側に溝を施してある「内面溝付銅管」は、より高い熱交換性能で省エネ対策に貢献しているんでしたよね。
アンサー氏

ご名答。よく覚えていたね。今回は、同じくその銅管の仲間で、内側だけではなく外側にも加工が施してある「加工管」をとりあげるよ。

モンちゃん
それも、やっぱりエアコンに使われるものなんですか。
アンサー氏
いや、これは主に冷凍空調機に使われているものなんだ。冷凍空調機は冷暖房兼用のエアコンと違って、各機器に適した形状があって、より性能アップさせているんだよ。それじゃ、まずこの形状から見てみよう。
モンちゃん
細かい模様になっていますね。
アンサー氏
これは「エンドクロス」というものなんだ。ほら、この表面をよく見てごらん。小さなピラミッド状の突起がらせん状についているだろう。
モンちゃん
うわー、ホントだ。 ルーペを使って見ると、とっても細かい突起がずらっと並んでいるのがよくわかるわ!
エンドクロスの外表面
エンドクロスの外表面
エンドクロスの管軸平行断面
エンドクロスの管軸平行断面
エンドクロスの管軸直角断面
エンドクロスの管軸直角断面
アンサー氏
「エンドクロス」は吸収式冷凍機の蒸発器用に開発された伝熱管なんだ。吸収式冷凍機は冷媒に水を使用した地球に優しい冷凍機で、その中の蒸発器というのは上から冷媒となる水を滴下していくシステムになっているんだよ。この表面の形状だと、その冷媒液となる水の量が少なくても、うまい具合に管軸方向へ水が濡れ広がって、液膜を薄くさせていくんだ。
モンちゃん
均一に水が濡れ広がって、薄い膜を作るということは、つまり、そのぶん効率良く冷やされて性能がアップするということなんですね。
アンサー氏
その通り。また、内側にもらせん状の突起を施して、管内側に流す水を乱して性能を向上させているんだよ。
モンちゃん
外側と内側とダブルで効率をあげているのか~、すごいなあ。
アンサー氏
従来、蒸発器にはローフィンチューブといって、管外にフィンをつけた伝熱管が使用されていたのだけれど、1.2mm以上の肉厚があって単重が大きくコストも高くついていたんだ。しかし、「エンドクロス」は突起の高さが0.3mm程度と低く、強度の高い薄い素材を使っているので、大幅に軽量化できたのさ。
モンちゃん
なるほど。ところで、今どれぐらいの肉厚でつくっているんですか?
アンサー氏
「エンドクロス」は、生産を始めたころは0.7mmの肉厚で製造していたけど、生産技術の改善により肉厚が0.65mmと薄くなり、今では0.6mmで製造が可能となったんだ。
モンちゃん
じゃあ、昔に比べて今は半分の肉厚ってことですね。これぞ技術の進歩だわ。
アンサー氏
それに冷媒を滴下するためのポンプは、ローフィンチューブが使われていたときは非常に大きなものが使用されていたんだ。でも、エンドクロスが使われるようになってからは、伝熱管表面での濡れ広がり性が良く、冷媒の散布量が少なくても性能がアップするため、今ではポンプも小さなものが使われているんだよ。
モンちゃん
「エンドクロス」って、ものすごく貢献してるんですね。
アンサー氏
またこの「エンドクロス」は、最近、吸収式冷凍機の吸収器にも使われるようになり、吸収式冷凍機の効率を向上させているんだ。
モンちゃん
同じ形状で、吸収器にも使えるのかぁ…。
アンサー氏
吸収器も、上から冷媒を吸収する役目を果たす「臭化リチウム水溶液」という吸収液を滴下していくんだけど、蒸発器と同様に上から落ちてくる吸収液の液膜が攪拌されて薄くなるんだよ。つまり、吸収液の液膜が薄くなった部分で吸収性能がアップするんだね。
モンちゃん
「エンドクロス」って、すごいんだー。
アンサー氏
この「エンドクロス」は、最新の高COP(エネルギー効率)機種に使用されていて、地球環境向上に役立っているんだよ。
モンちゃん
「エンドクロス」の性能はどうやって評価するんでしょう。
アンサー氏
神戸製鋼では、実機と同じサイクルの試験装置を持っていて、その装置に伝熱管に入れて実際に冷凍機を動かし、性能を測定するんだ。吸収式冷凍機の主要熱交換器全て測定ができるんだよ。
吸収式伝熱測定装置
吸収式伝熱測定装置
(吸収・蒸発器試験装置)

吸収式伝熱測定装置
吸収式伝熱測定装置
(低温再生・凝縮器試験装置)

モンちゃん
実機と同じサイクルの試験装置なんて、エアコンと違ってスケールが大きいですね!ところで、サイクルはどのようになっているんですか。
アンサー氏
エアコンと同様に、室外機に相当する凝縮器、室内機に相当する蒸発器があるけど、エアコンと異なり吸収式にはコンプレッサーが無いんだよ。
モンちゃん
え?コンプレッサーがないんですか。
アンサー氏
そう!吸収式は熱交換器の組み合わせだけでサイクルを形成して運転していて、再生器での溶液を加熱する熱源、たとえばガス、重油の燃焼熱または蒸気で動かすことができるんだ。最近は、廃熱を使って動かすものもあるんだよ。
モンちゃん
エネルギーの有効利用ですね。そういえば冷媒には水を使っているらしいけど、どうやって冷えるのかしら。
アンサー氏
吸収式には、冷媒の水を吸収する役目をする「臭化リチウム水溶液」が使われるのだけれど、この溶液は温度を下げることで圧力が大気圧以下になる性質があるんだよ。この溶液を使うことで装置内を真空にでき、冷媒である水が3℃ぐらいで蒸発するから冷やすことができるんだよ。
モンちゃん
水もうまく使えば有効利用ができるんですね。オドロキ!

フィンの形状を変えて性能アップした
圧縮式冷凍機用加工管の「トップクロス」

モンちゃん
冷凍機には吸収式のほかに圧縮式のタイプもあるんですよね。とすると、圧縮式で使う加工管はまた違ったものになるんですか。
アンサー氏
そのとおり。圧縮式冷凍機で使われるのが、この「トップクロス」というシリーズだよ。
モンちゃん
「トップクロス」には、「トップクロスCHT」と「トップクロスEHT」の2つがあるのね。
アンサー氏
圧縮式の熱交換器は凝縮器と蒸発器と2種類あって「トップクロス」もそれぞれ使い分けられているんだよ。CHTは凝縮器用、EHTは蒸発器用というわけなんだ。もちろんこの2つでは外表面の形状も違っているよ。
トップクロスCHTの管軸平行断面
トップクロスCHTの管軸平行断面

トップクロスCHTの管軸直角断面
トップクロスCHTの管軸直角断面

トップクロスEHTの管軸平行断面
トップクロスEHTの管軸平行断面

トップクロスEHTの管軸直角断面
トップクロスEHTの管軸直角断面

モンちゃん
これも細かいですね。肉眼じゃ、よくわからないわ。
アンサー氏

凝縮器用の加工管は、これまでは表面積を増やして伝熱性能を上げてきたんだ。でも近年の地球環境問題対策で、例えば塩素系冷媒が使われなくなったりして、冷媒の質がかわってきたため、従来の形状では十分な性能が出なくなるということがわかってきたんだよ。

モンちゃん
なるほど。使用する冷媒の性質にあわせた形状にしなくてはいけないのね。
アンサー氏
そうなんだ。それで、改良していくうちに、フィンの形状をちょっと変えるだけで飛躍的に性能があがることもわかったのさ。
モンちゃん
凝縮器用の「トップクロスCHT」はどんな形をしてるのかしら。
アンサー氏
ルーペを使ってごらん。今見てもらっているのが、最近開発された「トップクロスCHT34−N2」で、フィンの先端が2分割されて、さらに円周方向に細かく分断された、細かい突起がたくさんあるよ。
モンちゃん
うわぁ、まるで芸術品だー。
アンサー氏
この細かい突起を起点に、凝縮した液が落ちるんだよ。
モンちゃん
フィンの形状をどれくらい変えたんですか。
アンサー氏
フィン先端の突起の数を約2倍にしたことで、従来のものに比べて2割以上も性能アップして、熱交換器を小さくできるんだよ。
モンちゃん
じゃあ、もう一方の「トップクロスEHT」はどんな形をしてるんですか。
アンサー氏
これは凝縮器用と違って、フィンの先端がフラットになっていて、フィンとフィンの間に蒸発を促進させる空洞があるんだ。この空洞でフロンが蒸発し、気泡が発生してフィン先端部の隙間から排出されるんだよ。
モンちゃん
そうかぁ、この中はそんな効果があるのね。
アンサー氏
従来、気泡が排出されるフィン先端部の隙間は、ひじょうに狭いものが主流だったのだけど、冷凍機油の影響でフィン先端部の隙間部を詰まらせてしまうことがわかったんだ。そこで、この隙間を広くして目詰まりを防止したのがこの「トップクロスEHT」なんだよ。
モンちゃん
性能はいいんですか。
アンサー氏
もちろん、目詰まりもなく高性能だよ!
モンちゃん
うーん、加工管の溝ってホントに奥が深いんですねえ。
アンサー氏
知るほどに、そのすごさがわかるってところかな。
モンちゃん
「トップクロス」の性能はどうやって評価するんですか。
アンサー氏
こっちは吸収式と違って簡単な構造だけど、温度差で駆動する試験装置を持っていて、その装置を伝熱管を入れて性能を測定するんだ。測定は、凝縮器と蒸発器の両方できるよ。

圧縮式伝熱測定装置
圧縮式伝熱測定装置

モンちゃん
これも吸収式と同じで、スケールが大きいですねっ。サイクルはどうなっているんですか。
アンサー氏
これはエアコンと同じサイクルで構成されているんだよ。大きさは全然違うけどね!
モンちゃん
ところで、このトップクロスっていったいどのように使われているのか、想像がつかないんですけど…。
アンサー氏
これらの加工管は、シェルアンドチューブ式熱交換器に組み込んで使うんだ。また、凝縮器用の「トップクロスCHT」は、小型の冷凍機用として太い径の銅管の中にトップクロスを入れた2重管式熱交換器にも使われているよ。

ベースは平滑管、外側と内側を同時に加工

アンサー氏
次に加工管の作り方を勉強しよう。これら加工管は、平滑管の製造工程で製造された平滑直管を利用しているんだよ。また、できるだけ薄い材料で精密加工するため、1/2H調質に仕上られているんだよ。
モンちゃん
すべての加工管は、これがベースになっている、と。
アンサー氏
そうだね。この平滑管をローフィン転造機にかけて仕上げる。簡単に言うと、内面にマンドレルを入れ、外面からディスクを回転させながら押し付けてフィンを形成していくんだよ。

ローフィンチューブ転造加工部詳細図
ローフィンチューブ転造加工部詳細図

モンちゃん
外面の凹凸はディスクで造っていたんですね。
アンサー氏

この時に使う外面フィン成形ディスクは先端がテーパー状になっていて、何枚も重ねてセットするんだ。そして、ディスクは徐々に外径が大きくなっていて、押し込まれるとフィンが成形されるようになっているんだよ。

モンちゃん
押し込む時に、何かポイントはあるんですか。
アンサー氏
120度間隔で3方向から押し込むと自動的に芯出しされるのさ。

ローフィンチューブディスク押し込み方向
ローフィンチューブディスク押し込み方向

モンちゃん
内面の突起は「内面溝付管」と同じ造り方なのかしら。
アンサー氏
「リブ」と呼ばれるその突起の製造法は、基本的にはだいたい同じで、内面にマンドレルを挿入してディスクの圧力下で成形されるようになっている。つまり、成形加工は、外面と内面と同時に行われるんだよ。
モンちゃん
溝の付いたマンドレルは、「内面溝付管」の製造で使うプラグのようなものなのね。ところで、自動的に規定の製品長さに成形されるのは、どういうしくみになっているのかしら。
アンサー氏
センサーを使っているのさ。管は通常ディスクを押し込んで回転させながら加工しているんだけど、あらかじめ規定の長さにセンサーをセットしておいて、センサーが検知したところでディスクの押し込みを止めるようになっているんだ。 そして、この押し込みを止めた時点で、回転も止まるようになっている。したがって中間にフィンの無いランド部も作ることができるのさ。
モンちゃん
こうして出来上がったものはどうするんですか。
アンサー氏
加工後は矯正機にかけて整直、切断、面取りなどをし、最後に人間の目で外観などをチェックしてから出荷するんだよ。
モンちゃん
今回も大変勉強になりました。次々と進歩する「加工管」には、ほんとうにいろいろな知恵や技術が活かされてきているんですねぇ。そんな「加工管」の未来に、これからも期待したいと思います!