「AIによる高炉の炉熱予測システム」の運用開始及び「AI操炉®」構想について

2020年9月17日

株式会社神戸製鋼所

当社はこのたび、「AIによる高炉の炉熱予測システム」を開発し、先月より加古川製鉄所第2高炉にて運用を開始しました。これにより、5時間先の溶銑の温度が自動かつ高精度で予測可能となり、炉内温度低下などの操業トラブルを未然に防止し、さらなる安定操業に繋がります。今後は、より高度な炉況制御を行える「AI操炉🄬」の実現を目指し、開発を進めて参ります。

高炉では、炉頂からコークスと鉄鉱石を交互に装入し、炉下部にある羽口から熱風と微粉炭を吹き込みます。その熱風で還元材(コークス、微粉炭)を燃焼させ、生成したCOガスにより鉄鉱石を還元し、溶銑を製造します(図1)。溶銑の製造コストの中で多くを占める還元材の使用量を減らす事がコスト低減に繋がります。特に微粉炭より高コストであるコークスの使用量を減らすことが必要不可欠です。それにより、排出するCO2を削減する効果もあります。

ただし、炉内では原材料の性状変化等により、「溶銑の温度」や「炉内の通気性」※1が常に変動し、この変動が大きいと操業状態が不安定となる可能性があります。特に、高炉内を流れるガスの通気性確保の役割を担っているコークス量を減らすと、これらの変動は顕著となります。そのため、コークスの使用量を低減させた上で安定操業を行うためには、以下2点の予測が重要と考えています。

今回、運用を開始した「AIによる高炉の炉熱予測システム」は、上記1の「炉熱予測」を可能にするものです。上述の通り、炉内の通気性は常に変動し、それに伴い、炉熱に影響を及ぼす反応熱や炉体への放散熱も絶えず変動します。これらの変動現象が溶銑温度に複雑に影響することから、従来、炉熱予測は熟練操炉者の経験・知見に頼らざるを得ませんでした。しかし現在、熟練操炉者は減少傾向であり、経験・知見が少ない若手操炉者への移行が進んでいます。

今回、こうした炉内の反応熱や放散熱を複数のパラメータを有する数学モデルに入力し、5時間先の溶銑温度を算出するシステムを開発しました。特長は、予測精度が最高になるよう、過去数十時間の操業実績に基づき、長期的な炉熱変化を再現するとともに、特に直近数時間の近過去の炉熱実績は極めて高精度に再現できるよう、AIで最適なパラメータの探索を可能にした点です。これは、いわば熟練操炉者が経験・知見に基づき、非定常的に発生する変動要素を考慮し、現時点に至るまでの炉熱の変動実績から的確に炉熱調整のための次のアクションの量とタイミングを判断する思考をシステム化したものです。本システムの導入により、人では対応が困難な、より広範で複雑な炉内の炉熱変化影響を見逃すことなく、常に安定して評価し予測することが可能となります。

さらに通気予測についても自動化されると、コークスの使用量が少ない状態での高炉操業において、AIが自動で最適な判断、対処をする「AI操炉🄬」が実現します。当社は「AI操炉🄬」を目指し、残る「通気予測」についても引き続き開発を進めて参ります。

なお、本開発は2年前(2018年10月)に発足したAI推進プロジェクト部の成果の一つであり、今後も当社グループの製品開発や製造プロセスの高度化・革新に貢献して参ります。

  • ※1:溶銑温度と通気性について
    溶銑温度はおよそ1500℃で維持するが、その変動幅が小さければ結果的に溶銑成分も安定することになり、製鋼工程での操業安定性にも寄与する。また、通気性とは炉内のガス流れの安定性を意味し、炉内のガス流れが安定した状態を維持することができれば、炉熱も好適な状態に維持することができる。何らかの異常現象でこの通気性が著しく悪化した場合には、ガスの「吹き抜け」や装入物の降下異常にともなう急激な炉熱の低下により、炉内から溶銑やスラグを排出できず生産停止を余儀なくされる場合もある。

図1:高炉の仕組み

図1:高炉の仕組み

図2:「AI操炉<sup>🄬</sup>」への道筋

図2:「AI操炉🄬」への道筋

第二高炉の制御室 右端のモニター画面に溶銑温度の予測値などを表示

第二高炉の制御室
右端のモニター画面に溶銑温度の予測値などを表示

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