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プレスリリース

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超大型コンテナ船用降伏点47kg/mm2級高強度TMCP鋼板の船級承認取得

鋼板と構造の組み合わせにより高い安全性を実現

2007年6月21日

株式会社神戸製鋼所

当社は、超大型コンテナ船用降伏点47kg級(引張強度60kg)高強度TMCP鋼板の製造法承認を財団法人日本海事協会より取得しました。この鋼板は、高強度・高靱性と高い溶接性を有しており、船体の軽量化と造船所における生産性向上を達成するとともに、脆性破壊を停止させる船体構造との組合せにより、船舶の高い安全性の実現に寄与して行きます。

近年、コンテナ貨物の海上輸送量は、世界の主要な海上物流として急激に増大しており、コンテナ船では、高効率化のための大型化が進められています。その結果、最近発注される新造船では大型化が促進され、従来の最大6000個積みから9000個積みを超える超大型コンテナ船の建造量が急増しています。
超大型コンテナ船においては、最も力がかかるハッチサイドコーミングやアッパーデッキと呼ばれる部分に板厚80mm〜100mmの降伏点40kg級鋼(引張強度55kg)が用いられています。しかし最近、これらの部位に極厚鋼板(板厚50mm超え)を適用した場合の脆性破壊を危惧する報告がなされており、船体の安全性確保および船体軽量化の観点から、より強度が高く板厚を薄くすることが可能な降伏点47kg級鋼板が要望されています。
その実用化においては、鋼材の特性として高強度と高靱性に加えて高い溶接性を確保すること、さらに降伏点47kg級鋼板を適用した船体構造の脆性破壊に対する安全性を確認することが求められておりました。

降伏点47kg級鋼板の開発においては、これまでの技術では、大入熱溶接特性を確保しつつ降伏点40キロ級以上の強度を確保していくことは、TMCP技術を駆使しても難しいとされ、Niなどの非常に高価な特殊元素の添加などの技術に頼らざるを得ませんでした。
神戸製鋼が今回開発した降伏点47kg級鋼板は、これまで好評を得てきた降伏点40kg級の大入熱溶接用鋼板で採用してきた「結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術」を活用して優れた大入熱溶接での継手特性を有すると共に、新たに開発した均一強冷却TMCP技術やこれまで培ってきた当社独自のプロメ圧延技術を組み合わせることにより、両立が難しいとされていた高強度化と高靱性化、高溶接性の課題を特殊な元素を添加することなく達成することに成功しました。
また、鋼板の脆性破壊停止特性についても、高強度ながら高いレベル(Kca(0℃)=6,000N/mm3/2以上)を達成しており、従来から当社が製造している降伏点40kg級鋼板を初めとするハイテンシリーズ(降伏点40kg、36kg・・・)と同等の性能を有しております。

この結果、既に多くの実績を有する降伏点40kg級鋼板で確立されてきた溶接施工技術や溶接材料をそのまま活用することが可能であり、降伏点47kg級鋼板という高強度な鋼板でありながら、造船所の製造現場においても非常に使いやすいことが大きな特徴となります。溶接施工に関しては、当社の溶接部門が確立したSEGARC溶接法の適用により高効率な溶接が可能であることを確認しております。

船体構造の安全性については、(株)アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド゙殿と石川島播磨重工業(株)殿と共同で脆性破壊停止に向けた技術検討ワーキンググループを設置し、鋼板と船体構造の組み合わせによる対応策を検討しており、本鋼板を用いて、近々、日本海事協会より承認を取得する予定です。

この結果、本年5月7日に日本海事協会より、降伏点47級鋼板の製造法承認を取得しました。

今回製造法承認を取得した降伏点47kg級鋼板は、今後、(株)アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド゙殿を初めとする造船所の競争力強化に寄与して行くとともに、船体の軽量化による省エネルギーや船体構造の安全性向上を通して社会や環境への貢献を図っていきます。

ご参考

【TMCP鋼板】
 Thermo Mechanical Control Process(熱加工制御)の略。

【降伏点47kg級鋼板】
降伏点が47kg、引張強度は60kgの鋼板。これまでの最大厚は50mmであるが、当社は60mm厚の鋼板の商品化に成功した。
降伏点47kg級鋼板を使用することにより、降伏点40kg級鋼板(引張強度55kg)に比べて数百トンの鋼材重量を削減することが可能。

【コンテナ船】
コンテナ船は、コンテナを積み込むため、図のように上甲板に大きな開口を設けた構造になっており、ハッチサイドコーミングやアッパーデッキは、大きな力が加わるため、高強度の厚鋼板を使用している。

【溶接熱影響部】
溶接時の熱影響部(HAZ =Heat Affected Zone)組織。溶接時の高温により金属組織が粗大化し、強度および靱性が低下する。

【結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術】
溶接熱影響部の靱性劣化を防止して、強度を確保する当社独自の技術。炭素量を従来鋼より大幅に低減すると同時に、TMCP技術による強度上昇効果の最大活用により、高強度を確保するための合金元素添加量を最低限に抑制している。本技術により、従来困難とされてきた極厚高強度鋼においても大入熱溶接の適用が可能となる。

【プロメ圧延】
厚鋼板を圧延する際、材質予測技術を駆使した圧延のパススケジュール設定や、  オンラインでの各パス毎の微調整が可能となる製造法。これにより、材質(降伏点や靭性)のばらつきを従来材に比べて大幅に低減し、狙いとする機械的特性を達成できる。

【脆性破壊】
ガラスや陶器は、外部から大きな衝撃が加わると、破壊が瞬間的に発生・伝播して壊れてしまう「脆性破壊」と云う現象を起こす。
鋼板においても、使用環境が低温であったり、予想外の衝撃が加わったりすると、この脆性破壊が発生する場合があり、大きな事故に繋がる可能性がある。
このため、原油やガスの運搬船に代表される船舶、海底資源を採掘する海洋構造物、各種エネルギーの貯蔵タンクや超高層ビル等の大型構造物は、脆性破壊を起こさない高い安全性や信頼性を備えることが極めて重要。
脆性破壊を防止するために、脆性破壊の発生抑制と伝播防止の両面から構造設計時に各種対策が講じられている。また同時に鋼板にも高い破壊靭性が求められており、脆性破壊発生特性、脆性破壊停止特性に優れた鋼板が開発されている。

【SEGARC溶接】
神戸製鋼独自の縦向き方向の効率の良い自動溶接法。

【構造上の工夫】
ハッチサイドコーミング、アッパーデッキ、コーミングトップの接合方法を工夫すること、具体的にはハッチサイドコーミングとアッパーデッキ、アッパーデッキとコーミングトップの溶接部に未溶着部を残存させる特殊な溶接施工方法を採用して、未溶着部で脆性亀裂を停止させることが可能。効果の検証においては、FEM(有限要素法)を用いた弾塑性解析に加えて、実際の船体構造に近い大型の破壊試験を実施した。

【造船所の生産性向上】
従来の降伏点40kg級鋼板をハッチサイドコーミングに適用する場合、板厚が80mm〜100mmと厚いため、複数回の溶接が必要であった。今回開発した降伏点47kg級鋼板を用いれば高強度化による減厚が図れるため、板厚は50〜60mmとなり、溶接は1回で十分であり、溶接時間を従来の1/2以下に低減することが可能となる。

【アレスト特性】
脆性亀裂を停止させる特性で壊れにくさの指標のひとつ。船舶においては、Kca≧6,000N/mm3/2を満たす必要がある(SR193の研究成果)。当社の降伏点40kg級鋼板においても精緻な品質工程設計により、この値はクリアしているが、降伏点47kg級鋼板でもその技術の活用により良好な品質を確保している。